僕は、RPGのシステムは主にルールとデータと、それから世界観で決まってくると思う。これには結構賛成してもらえるんじゃないかな? どうだろう?
その中に、遊び方や楽しさを見出しているんだ。
『ビーストバインド』を例に出そう。
僕はこのシステムが大好きだ。
現代日本の中に様々な魔物と、そして彼等の社会が隠れ潜んでいる世界、見えないところで両者は衝突し、たまに、本当に時々、歩み寄る。更に魔物の種類が豊富、となれば、シナリオの題材には困るまい。
ルールはそれこそ盛り沢山だ。何しろ藤浪智之なのだから。絆とエゴに振り回される判定、職業毎に魔物の目撃され易さが決まる社会注目度、妙な危険性を孕んだ人間の反応表、愛や罪といったチット……とてもここでは語り尽くせない。
データも矢張り面白い。例えば「大学生(理系)」という職業パックを選ぶと、【感情】カテゴリーに恋人という絆が付いてくる。これが文系では【肉体】なのである。そして体育会系はというと……まあ、実際見てみてください。ここではいささか書き難い。
ビヨンドでもファーでもない一番最初の『ローズ・トゥ・ロード』が再販される、このニュースを聞いた時、僕は複雑な心境だった。
新作RPGが出版されるのは嬉しい。それは勿論だ。
しかし、何故、再版なのか。それも最初の『ローズ』の。一度しかプレイしたことが無いので細かいことは分からないが、聞いた話と総合してもとにかく古いシステムだった筈だ。背景世界も特に目新しい点は見当たらない。ルールも、セッション運営やシステムの方向性を打ち出すような物は勿論無いし、戦闘などのバランスが悪い。只、魔法システムは面白かった。発動するまで、どんな魔法を使えるか、そもそも発動するかどうか、プレイヤーにもGMにも分からないのである。
しかしそれだけだ。本当は、背景世界も特徴となるべきものなのだろう。実際に目にしたことは無いが、サプリメントなどによって更に魅力的なものになっていたのかも知れない。しかし、現在、世界を語る言葉が多いことや世界に深みがあることは長所とならない。それ故に敬遠する人までいる始末だ。
これがそのまま出たとして、今、『ローズ』をやる理由という物は見出せないのではなかろうか。
そういった不安の中、新しい『ローズ』は出た。
出てみたそれは、上記のことがそのまま当て嵌まった。いや、サプリメントは無いし、ローズ爺さんの話によると情報が少し削れたらしい。バランスの悪さそのままで。
全体に悪くなっているではないか。
ローズ爺さんが買ってから様子を見、それから購入を考える積もりの僕は、当然ながら買い控えた。
でも、セッションはした。
『旧ローズ』や『ビヨンド・ローズ・トゥ・ロード』のオフィシャルシナリオを遊んでみたところ、かなり面白かった。でも、それはシステムの力ではない。
やがてサプリメントが発売された。
構成はリプレイとシナリオがメインで、追加世界設定とアイテム表がちょっと。どこかで見た構成だ。当然期待はしなかった。
しかし、奇妙なことが起こった。
周りのローズ爺さんのみならず、所収シナリオ『さよならの城』を経験した人間皆が、熱っぽく、まるで全く新しいRPGを発見したかのように語るのである。
曰く、「あれはやばい。凄い面白くて、しかもクリアできなかった。シナリオ読んだ今でもどうやってクリアするのか分からないよ。もう一回やりたい」
言っていることがちんぷんかんぷんだった。シナリオにクリア方法が書いていない? 分かっているシナリオをもう一度やる? そんな感想は聞いたことが無かった。いや、僕のRPG経験は乏しいし、記憶力も悪い、滅多に聞かない、程度に留めておこう。
彼等は折に触れてそのシナリオのことを語った。だが肝心なところ、どう面白いのかは教えてくれなかった。そのうちに段々気になってきた。高くなかったのも手伝って、とうとうその『ザ・ストレンジソング』を買ってしまった。さっきの二つの疑問は解消された。あとは面白いかどうかだけだ。
持っていないルールブックを借り、『さよならの城』をGMした。結果は語らないでおこう。あれは僕達の物語だから。
余談だけれど宣伝。『ザ・ストレンジソング』は税込み\1,800で、これを今回のコンベンションに持って行くと、\500の入場料が半額になるそうだ。僕も持っていこうかな。
『さよならの城』とリプレイ『違う歌』、シナリオ『違う歌』に触れてみて分かること、それは、シナリオの力、だ。
僕はシステムの方向性か、少なくとも特徴的なルールが無ければ、そのシステムならではのシナリオは作れないと思っていた。
しかし、『違う歌』は『ローズ』らしかった。同名のリプレイもよかった。そのシナリオには意味のある要素という物が、驚くほど少なかった。あることが何故起こるのか、誰にも(もしかしたらシナリオ作成者にも)分からないのだ。それでもリプレイのプレイヤー達はそれを発見した。出来上がったのは一つの物語、幻想物語だった。
鮮烈な体験だ。『さよならの城』体験者達の反応も頷ける。むしろ、僕がそういう反応をしてしまっているではないか。
『ローズ』は、僕の持っていたイメージとはずっと違っていたようだ。そして、ずっと面白かった。
しかし待てよ? こんなシナリオ、一般のユーザーに作れるのか? ○○のオフィシャルシナリオを模倣するのとはわけが違うぞ?
そう戸惑っていた僕の前に、「ロール&ロール」誌が差し出された。
「ロール&ロール」を手に取り、開いてみると、『ローズ』のリプレイ小説が載っていた。この人達は、本当にいつもこんなセッションをしているんだな、『ザ・ストレンジソング』を知らなければヤラセだと思っていたろう。
感心していた僕の前に、別の「ロール&ロール」誌が差し出された。
『ローズ』のシナリオが載っていた。「答え」は載っていなかった。僕達はそれを発見した。勿論、それは教えない。僕達だけの答えだから。
そんなことが続いた。僕の『ローズ』観は、間違い無くシナリオ達によって作られた。シナリオが、RPGに、大きな大きな特徴を与えたのである。
更に、そのシナリオ達のお陰で、いないと思っていたローズ脳の持ち主までが作られてしまった。『ローズ』ならではのシナリオを作り、それをハンドリングしているのである。僕にはとても真似できない。
こうしてシナリオの力によって、『ローズ』は、ダンジョンズ&ドラゴンズともアルシャードともルーンクエストともソードワールドとも、どれとも違うファンタジーRPGとなった。
おっと、僕は“厚顔無恥”だった。
だから、断言しよう。
新版『ローズ・トゥ・ロード』は、「凡百のファンタジーRPG」から「比類無いファンタジーRPG」となっていった。