「この国でロールプレイングゲームが無くなるなんてことは無いさ。みんなゲームが好きだからね」
イッサ・カジワラは、そう呟くと買ったばかりの「セブン=フォートレスV3」のページをめくった。イッサ・カジワラという名前は、イワノフ書房という団体を作ったとき、自分で考えたんだそうだ。もっとも、その団体は RPG とはあまり関係は無かったらしい。会場でゲームを遊ぶ SILLY WORKS のボーイズを眺めながら、カジワラは目を細めた。
「─みんなゲームが好きで、昔のゲームをリスペクトしているのさ」
元々、カジワラはインディー・シーンで「T&T」「ストームブリンガー」「ワースブレイド」なんかの GM をしていた。SILLY WORKS は、彼の友人が旗揚げした団体で、その見届け人が『イッサ・カジワラ』であるというややこしい事情がある。SILLY WORKS の当初の面々は、今ではほとんど残っていない。それでもカジワラはコンベンションを開くことにした。『みんなゲームを愛してるし、それに、帰ってきたときゲームが出来なかったら悲しいだろう?』と彼は教えてくれた。
何故 World of Darkness のオンリーコンベンションなんだという質問に、カジワラは『なんで、そんなことを聞くんだ』とでも言いたげな顔をして答えた。
「ボーイズが World of Darkness を愛してるからさ」
『それに私もね』と付け加えると、カジワラは片目をつぶって見せた。カジワラは、今日は本当はナイトウィザードと D&D 3rd edition を買ってくるつもりだった。けど買って来たのはセブン=フォートレスV3だった。
「ナイトウィザードは、ちょっと恥ずかしくてな。それに D&D は売り切れてて、入荷待ちだったんだよ。セブン=フォートレス V3 は、うちのボーイズはまだ誰も買ってないしな。」
彼は、次の給料日にはナイトウィザードと D&D を買うんだと嬉しそうに続けた。どうやらセブン=フォートレスを買ったのは、ボーイズにそそのかされたかららしい。しばらくセブン=フォートレスV3を読み進めると、彼はクリーチャーのページを指差した。
「見ろ、『枯れント』だ。コンプ RPG で見て以来だ。超女王様伝説だよ。この国じゃ、デザイナーも昔のゲームをリスペクトしてるのかもな」
『もっともこのデザイナーが自分で作ったゲームだが』といってカジワラは笑顔を見せた。いくつになってもボーイズはボーイズなのだ。そんな時、会場から別のボーイズたちの非難の声があがった。どうやら彼らは、カジワラの作った天羅万象のシナリオで遊んでいたらしい。声から察するに、シナリオ冒頭で雷が落ちて、気がつくと現代日本にいるというシナリオだったようだ。
「やっぱりコルムは駄目だったかな?」
そう呟くと、カジワラは小さく肩をすくめた。