「ローズトゥロード」とはいったい何か……そう問い掛けられたなら、ある者は「想い出のゲーム」と答え、またある者は「幻想の世界へのガイドブック、言うなれば『ユルセルームの歩き方』かな?」と答えるかもしれません。他にも「色んな種族ができるゲーム」「カードを使って魔法をやるやつでしょう?」「今現在の俺のメインシステム」「海外ファンタジーっぽい匂いのするゲーム」「ぶらり“王の道”旅情」「ロストロイヤルが強かった」「バランスがアレなゲーム」「ファンタジーとRPGについて、僕に問いかけをしてくれたモノ」……こんな様々な答えが、それぞれの経験と想い出と共に語られることでしょう。
「ローズトゥロード」は、そんなプレイする人と共に歩んでいくゲームなのです(TRPGという遊び自体がそのようなモノなのかもしれません……しかし、「ローズトゥロード」は他のシステムよりも、そのことを強く意識させてくれるでしょう)。だから、このゲームをプレイする人にはユルセルームの風を感じ、システム・ルールから来る結果の解釈に遊び、自分の分身たる幻想世界の住人を愛し、ゲームマスターや仲間たちと語る物語(それが悲劇か、喜劇か、それとも楽しく切なく描かれる日常の物語かは……あなた達が選んでいくことでしょう)に酔いしれる……その経験を以て初めて「ローズトゥロード」に出会うのです。
……この説明だけではわからない、そんな意見も当然あるでしょう。具体的な説明もほとんどなく、一歩間違えば「やればわかる」と言っているようにもとれるのですから。
そこで、もう少し具体的な話と、「ローズトゥロード」シリーズ各システムについての簡単な説明を僕なりにしていきたいと思います。
「ローズトゥロード」シリーズは1984年に発売された日本初のオリジナルファンタジーTRPG『ローズトゥロード』を初代として、『ビヨンドローズトゥロード』、『ファーローズトゥロード』、そして2002年にエンターブレインから発売された新版『ローズトゥロード』へと続く、本格ファンタジーRPGのシリーズです。
かりそめの大地“ユルセルーム”を舞台として、そこに住む人間族、妖精族、丘小人、山小人、獣人族、巨人族など様々な“言葉ある”種族の者たちが、運命の星“クステ”や魔法の源“マジックイメージ”、神の顕われや幽魔族の気紛れ……など様々なモノに導かれて、幻想的で叙情的な冒険や取り留めもない日々の生活を行なっていく、そんなゲームなのです。
まず、初代『ローズトゥロード』。
統一王朝が崩壊し、その後の大混乱の時代の過ぎし頃、ユルセルームには“人間族の都にして西方の城塞”ストラディウム、“始まりの聖光が沃野”ファライゾン、“妖精族の森、調和のよろこび”エルロウダ、“北の魔国”デュラの4つの大きな国々と数多くの小国家が存在していました(故にこの時代を四王国期と呼ぶ)。
“言葉ある”種族たちの中で冒険を志す者たちは統一王朝が遺した“王の道”をたどって、大地を旅する。予言には統一王となり、統一王朝を復興せんとする者が顕われようとしていると聞く。ならばついでにその噂も確かめてこようか……。
システム的には、この時点で2d6+能力値で様々なことを判定する“リアルロール”が存在していました(戦闘のみ、少し違うルールですが)。魔法に関しても、カードを使って魔法を発動させるシステムが採用されています。ローズトゥロードシリーズの基本となる要素がここで形作られていることとなります。
……正直な話、僕はこのシステムをリアルタイムではやってはいません。ゆえに、どうであったかを正確に語ることは出来ませんが……おそらく、この頃はまだ、コンピューターゲームなどによる定型的なファンタジー観におかされること無く、指輪物語やゲド戦記などの海外ファンタジー作品の持つような“幻想的な世界”の創造を行なおうとしていたのではないか……そして、それがシリーズの根底に流れているのではないかと、僕は思います。
突然、四王国期のユルセルームに訪れた災厄、“大いなる忘却の呪縛”。
これによって全ての記憶と記録は混乱をきたし、一世紀にわたる“大暗黒期”へと入りました。そして「星が瞬くだけの静かな夜」の後、新たなる“薄暗がりの時代”が始まったのです。
一世紀にわたる空白によって、人々は多くのモノを失いました。しかし、呆然と立ち尽くしている訳にはいきません。歩み始めなければいけないのです……新たに広がる魔法と幻想の世界へと。
ビヨンドローズトゥロード(以下Bローズ)は旧版ローズトゥロードの続編であり、RPG経験者へ向けた上級ルールとして発売されました。……数多く増えた能力値、カードのイメージを組み合わせて効果をつくり出す魔法、深遠な世界観とそれを表現するルール……これらは魅力的であるのと同時に、プレイヤーにとってハードルの高いモノでありました。ゆえに、ユーザーを選ぶ結果になってしまったようです(サプリメントの『変異混成術師の夜』はそういう意味でも凄すぎた……外見を表で決め、その特徴から種族を推定するとか……)。
しかし、さらに先鋭的な形で提示されたBローズのファンタジーは、プレイした人々の心の中に深く刻まれたことでしょう(……僕も、龍と向かい合い、剣に誓いをたてたある一人の龍人族の物語とその中で垣間見た幻想はいまだに忘れることができません)。
“薄暗がりの時代”末期、世界はゆっくりと混乱から立ち直りつつありました。
魔法はある程度形をととのえ、生活も落ち着きを取り戻して来たように見える……しかし、何かが変わっていました。感情が力を持ち、使い古された物品が“言葉ある”種族に転生し、ある者は老いるのを忘れ、種としての力の限界までもやすやすと乗り越えようとしていく……。そして、西方にて後に“大旗戦争”と呼ばれる争いが起きようとしていたのです……。
このファーローズトゥロード(Fローズ)はシステム的には少し異端となっています。他のシリーズ作品と比べ細かく具体的な世界設定(特に経験表とアイテム)と世界観の幻想を表わすルール……信仰による転生、感情の激情、感情の共有、プレイヤーが演じることができる“道具”、マジックイメージを使った精霊とのコミュニケーション……など、今までプレイヤーの想像力に任せていた部分を具体化していき、ダイスを振っているだけでファンタジーになる、そんなゲームなのです。
プレイヤーの想像力を信頼するのと、システムから自然に世界に入れるように作る……どちらがいいのかはわかりませんが、ユルセルームという世界をどっぷり体感するには、こういうのもいいなと、僕は思います。あと、ファンタジー過ぎて、下手に冒険するより生活を描く方が向いているというのも、僕がこのシステムを好きなところです。
旧版から18年の後に新たに出版された新版ローズトゥロード。
今まで出た設定と雰囲気をまとめあげ、改定したルールで“四王国期”を舞台に冒険の旅を行なうことになります。ですが……このゲームは単なる旧版のマイナーチェンジではありません。
まず、システムで特徴的なのは特技でしょう。〈歴史〉〈白兵戦〉という普通のモノから、〈生活〉〈ガラクタ〉といったちょっと妙なモノ、それどころか〈平和〉〈片想い〉〈苦悩〉〈秋〉〈出会いと別れ〉などという、どう使えばいいのかわからないモノが存在します……しかも、ルールには特技の個別の説明は書いていません。……それは、キャラクターの活躍を型にはめず、プレイヤーの想像力で物語を作り上げるための道具として、特技が用意されているからです。また、特技はキャラクターがどのような能力を持っているかではなく、その種族、職業、キャラクターがいかなる人物か……そのイメージを表わす為に、想像力をかきたてるために存在しているのだと、僕は思います。
このように新版は今までのモノをまとめあげた上で、イメージ・雰囲気というモノを前面に押し出しています。特技などのシステム面、シナリオ、タトゥーノというマジックイメージを使った“弱き者の”魔法、マスタースクリーンの詳細なキャラクターメイキング……そして本来、展開のリセットの為に用意された(であろう)“大いなる忘却の呪縛”が迫り繰る終末として、世界に訪れる運命として描かれている事……。
Fローズは設定やルールで縛る事によって世界を表現しようとしました。それに対して新版ローズは雰囲気を作り上げ、イメージを提示し、緩やかなルールでプレイヤーの想像力を刺激し、ユルセルームへと誘う……そんなゲームだと僕は思います。
以上が、僕の出会った「ローズトゥロード」です。
興味を持った方がいれば、ぜひ、「ローズトゥロード」を手に取り、プレイしてみてください。
ユルセルームを旅したあとに、きっとあなたの「ローズトゥロード」に出会えるでしょうから。
著:Ramukki